注意事項
「悪意のない加害者」という表現は一部の被害者の方々から批判をいただきました。その批判を受けて、GADHAは被害者の方も交えたディスカッションを複数回行い、透明性を持って、その批判への応答を行いました。その詳細は「「悪意のない加害者」という表現への批判と応答」をご覧ください。
安易に病名や専門用語を用いることについての批判と、G.A.D.H.Aとしての考えは別稿にまとめています。このページは「悪意のない加害者」の定義と、このような独自の用語を作った目的について述べるために作成しました。
また、定義だけではわかりづらいと思うので「あるあるエピソード」を今後多数紹介していきますので、そちらも参照ください。
定義
悪意のない加害者とは「大切にしたい人に対して、傷つける意図はなく、大切にする方法がわからないために、加害的な言動を繰り返してしまう人」を指します。それぞれ説明していきます。
1.大切にしたい人に対して
という条件を付しているのは、すべての人とのコミュニケーションを対象にしないことを意味しています。大切にしたいという意図を持って接する限定された対象に対して、加害者になってしまうことにフォーカスしています。
2.傷つける意図はなく
という条件を付しているのは、加害することを目的としたコミュニケーションを対象としないためです。相手を「わざと」傷つけたり、困らせるような人は、ここでは対象になりません。「そんなつもりはないのに」「良かれと思って」「正しいと信じて」傷つけてしまう人にフォーカスしています。
3.大切にする方法がわからないために
という条件を付しているのは、意図があるにもかかわらずその方法がわからないために、空回りし、誤解され、傷つけてしまっていることを強調するためです。逆に言えば、大切にしたいという意図があるのですから、方法がわかれば悪意のない加害を減らせることも示しています。
4.加害的な言動
という条件を付しているのは、この定義には加害-被害の関係が前提となっているからです。大切にしたいという意図を持つことも、大切にする方法がわからないことも、それ自体は問題ではありません。大切な人を傷つけてしまうことが問題になります。加害の定義については「加害者変容理論」にて述べていきます。
5.繰り返してしまう人
という条件を付しているのは、加害的な言動を単発的に行ってしまった人を対象から外すためです。繰り返される非機能的なコミュニケーションパターンは、根本的な考え方の変容が必要になります。
既存の用語を用いない理由
上記のような人は「モラハラ」「自己愛性(境界性)パーソナリティ障害」「カサンドラの加害者(ASD)」「気遣いができない人」など色々な呼ばれ方をするのではないかと思います。
場合に応じて「モラハラ」「DV」という言葉を用いることがありますが、理解の簡便さのためであり、いずれ違う言葉に置き換えていくことがありえます。
あえて「悪意のない加害者」という用語を用いるのは、このような言動をとってしまう人には、さまざまな原因があり、何か特定の原因を強調したくなかったからです。
・C-PTSD / トラウマの観点から理解する見方
・発達障害由来の特性の観点から理解する見方
・フェミニズム/ジェンダーの観点から理解する見方
・パーソナリティ障害の観点から理解する見方
・愛着障害(アダルトチャイルド/毒親)の観点から理解する見方
・アディクション/依存症の観点から理解する見方
・家族システムの観点から理解する見方
など様々な原因が検討され、それぞれの視点に基づいた介入プログラムが構築されています。どの視点に基づくかによって、問題の捉え方はもちろん、その介入方法も大きく変わります。
それによりプログラムの名称も異なります。ある立場では「治療」、ある立場では「教育」、ある立場では「更生」など使う言葉は様々です。それぞれの語彙には分野・方法・認識論ごとの歴史があります。
また、それぞれの立場が相互に批判をおこなっていることもあり、どれか1つの理論が唯一正しいという合意が取れている状態ではありませんし、そうである必要もないでしょう。
GADHAの考え方
GADHAは、(アラスデア・マッキンタイアを主眼に置いた)ケアの哲学に基づく加害者変容理論を構築しています。これは加害当事者である僕自身が変容するのに必要だった知識をベースに、実際に加害者変容支援を行う実践の中で構築するものです。
認識論においては「構築主義」の立場を、
人間観においては「解釈する存在(ハンス・ヨナス)」「依存する存在(A.マッキンタイア)」という立場を、
幸福論においては(well-beingやmindfulness/flowではなく)「共同解釈による存在の相互受容」を重視する立場を、
責任/自由論においては「自らが関係するとみなした他者のニーズに応じるケア」を重視する立場を、
具体的なコミュニケーション実践においては「共同解釈を目指した情動調律」を重視する立場を取ります。
GADHAの加害者変容理論は現在進行形で理論化がなされている段階です。既存の理論も、実践的必要に応じ、敬意を払った上で慎重に位置付ける作業を進めています。
現在、「GADHA加害者変容理論入門」を書籍の形にまとめています。主要な概念とその定義は、改めてアップデートする見込みで、2021年中の初稿完成とセミクローズドな公開を目指しています。
WEBの情報はそれに伴って更新されていくため、最新の理論にアクセスして学び、加害者変容を目指したい方は、ぜひ加害者変容プログラムや当事者コミュニティにご参加ください。
関連記事
終わりに
G.A.D.H.A(Gathering Against Doing Harm Again:ガドハ)は、大切にしたいはずのパートナーや仲間を傷つけたり、苦しめたりしてしまう「悪意のない加害者」が、人との関わりを学習するためのコミュニティサービスです。
当事者コミュニティとイベントの運営、加害者変容理論の発信、トレーニングなどを行い、大切な人のために変わりたいと願う「悪意のない加害者」に変容のきっかけを提供し、ケアのある社会の実現を目的としています。
当事者コミュニティやトレーニングに関するお問い合わせはこちらから。