これまで読んできた文献をテーマごとに載せています。分類は便宜的なものであり、相互に関係していたり重複しています。リンクはAmazonに飛びます。重要な文献については書評記事を作っていきたいです。
文献のテーマ
- ケア
- 対話
- 関係修復・アサーション
- 発達障害
- 親との関係、愛着障害、アダルトチャイルド
- 成人発達理論
- 幸福
- 仏教思想・瞑想
- 感情、思考と肉体
- アドラー心理学
- コーチング
- ストレス、上司・部下の関係
- 人事・組織
ケア
気遣う、ケアするということには「何かできることがあれば良いのにと思いながら、何もできない。けれども、その悲しみや痛みや怒りの傍らにいる」ということもある。 介入するのでも評価するのでも改善するのでもない、他者との在り方。
115.「つくったのではない。湧いてくる、生まれてくるもの。ひとりの技ではなく。相手を変えるだけでも現れない。こちらが変わるだけでも現れない。こちらと相手のあいだに無頓着に現れるもの。支え、支えられ、凌いでいて、そうするうちに育っていたもの。」 これをなんと呼べばよいものか。
吉原・広岡『ケアリング研究へのいざない』(風間書房,2011) 書評記事
2.「「ケアリング」とは我々だれもがいつでもどこでも直面せざるをえない「生きる」場に不可欠なものである。それを貫くのは、人間関係に必要とされる哲学的・宗教的・社会学的・教育学的・心理学的原理であり、心の構え方、対話、実践などとして現れる総体である。」
7.〈ケアするとは、その人が成長すること、自己実現することを助けること〉〈「専心」がなくなれば、ケアは喪失する〉〈ケアは連続性を前提としている〉
30.ケアすることが中心にある生の安定性は、一度獲得すれば終わりという性質ではない。「私と補充関係にある対象によって必要とされている、という事実からくる帰属感を深く身に感じ取ると、その経験は私を根底から支えてくれるのである。」」
ファビエンヌ・ブルジュール『ケアの倫理 ネオリベラリズムへの反論』(白水社,2014)
ケアの理論は 19.「他者への関心によって形成される関係の倫理」であり「どんな人間も自分だけでは完結できない。個人は、根本的に弱く、お互いに依存している。」
この倫理の定義は人間を基本的に弱者であると定義することであり、それはこれまでの人間科学の根本的な前提を覆しうる転換である。
「いる」だけでは脅かされてしまう人たちがいる。だからこそ、「いる」ために「いる」場所としてデイケアがあるという。
脅かされずに一緒にいること。これは僕の言葉で言うと「くつろいだ関係」だと言える。 「この私」を「この私」のままでいさせてくれる。解釈のジャッジや変更を求められない関係。
51.「 つまり、利他の大原則は、「自分の行為の結果はコントロールできない」ということなのではないかと思います。やってみて、相手が実際にどう思うかは分からない。わからないけど、それでもやってみる。この不確実性を意識していない利他は、押しつけであり、ひどい場合には暴力になります。」
55.「他者の潜在的な可能性に耳を傾けることである、という意味で、利他の本質は他者をケアすることなのではないか、と私は考えています。(…) この場合のケアとは「こちらには見えていない部分がこの人にはあるんだ」という距離と敬意をもって他者を気づかうこと、という意味でのケアです。」
加害者更生プログラムには、二重性がある。目の前の男性、その背景にいる被害者女性への責任。 被害者女性たちが「わたしたちのために実施されるプログラムだ」と信じられるものでなければならない。 カナダなどでは、加害者支援をするものは被害者支援の十分な経験者であることを勧めている。
237.DVは「洗脳的支配による人格否定がその根底に横たわっている。これをモラルハラスメント(モラハラ)と呼ぶ人もいるが、私はこのことばを使わない。DVそのものであり、その根幹は妻の人格を独占し支配することなのだから。」
ランディ・バンクロフト『DV・虐待加害者の実体を知る』(明石書店,2008)
54.感情が行動を引き起こすのではない。精神的な傷を受けてどう反応/行動するかは、考え方や習慣によって決定される。 そうじゃなければ暴力を振るうような人間はとっくに会社をクビになっている。殴る対象を決めてから殴るに値する感情を持ったと言っているだけ。
64.怒りをコントロールできないのが問題なのではない。あくまで虐待をすることが問題である。 怒りを感じたときに人が取る行動は様々あり、それは自分に自らが「許可」して行なっている。 虐待をするために、怒りを口実にしていることが問題なのである。
109.「虐待は、考え方と価値観から生じるもので、感情によるものではありません。根本が所有意識で、幹が特権意識で、枝がコントロールという行動です。」 「虐待することと尊重することは正反対です。」
対話
198.「ナラティヴ・アプローチは(…)社会構成主義を理論的背景に(…)いくつかの興味深い実践があるが、その代表的なものとして「問題の外在化」、「無知の姿勢」、「リフレクティング・チーム」」がある。
対話のことば1.体験している世界2.多様な声3.新たな理解
この本は物凄い。複数の断片化したさまざまな知識を統合して対話を、その場を作ってきたけれど、この本のまとまり具合は物凄い。人との関わりにおいて「自分が持っている答え」の怪しさや、「なぜこのように考えないのか?」という暴力性を自覚できた人は是非読んで欲しい。
中田『対話型ファシリテーションの手ほどき』(ムラのミライ、2015)
121.「生きた人間を、当事者抜きで総括してしまう(…)物言わぬ客体に帰してしまう事は許されない。人間の内には、本人だけが自由な自意識と言葉という行為を持って解明することのできる何ものかが存在しており、それは人間の外側だけを見た本人不在の定義では消して捉えきれないものなのである」ま学芸文庫、1995)
関係修復・アサーション
イルセ・サン『こわれた関係のなおし方』(Discover、2020)
81.「肝心なのは、できるだけ、ありのままの現実を見るようにすること、そして何より重要なのは、共有体験をめぐる相手の物語に素直に耳を傾けることです。それがどんなにあなたのものと違っていても、あなたが自分の物語を真実だと思うのと同じくらい、相手の物語も本人にとっては真実なのです。」
221.親と一緒にいると苦しかったり、帰ってきた後ぐったりするような人。親から与えられた役割が、自分がリラックスできる自分を抑圧してしまう。親にとって理想的な反応、リアクション、「親が親切だと思ってした(別に自分が望んでない)ことに笑顔で感謝しなければならない」しんどさ。こういうコミュニケーションを「身に付けさせられた」子どもは、適切に要求をする能力が極端に低くなる。自分の思いを抑圧して「自分のやりたいこと」もわからなくなり、相手の要求を無制限に受け入れたり、逆に親と同じように支配的な要求しかできず、相手を摩耗させてしまう。
イルセ・サン『心がつながるのが怖い』(Discover、2017)
親子関係から始まる「他者との関わり方」は、友人・恋愛・職場関係すべてに色濃く反映される。
10.自己防衛の戦略とは「鈍感になろうとしたり、他者や自身の内面と距離を置いたりする措置」自分の感情を抑圧して、怒りを無いものとしたり、傷ついたと言う感覚を麻痺させたりして、結果的に人と関わるための「自己像」ごと失ってしまったりする。
私はこういう人間だから、昔からこういう人なの、おれへの人格批判か、変われというのは否定だ…。その人の「人間性や人格」ではなく「コミュニケーションのパターン」として捉えることは、往々にしてとても難しい。
118.「人生の不適切なパターンの多くは、悲しみは不快さを避ける試みから生まれます。」それを隠すために、防衛戦略、怒りや苛立ちがある。繰り返してしまう不適切なコミュニケーションパターンを「変えられない性格」と認識してしまうのは辛い。
野末『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房,2015)
11.「危機というのは、それによって自分やパートナーが苦しみを味わい、家族や人間関係が壊れてしまう危険性を秘めている一方で、それを乗り越えることができたら、以前よりも大きく成長し、関係がよりよくなる機会になる可能性も秘めている」
本書では発達障害や愛着障害、あるいはACといった概念は全く登場しない。この辺は流派やポリシーなど色々ありそうだけど、どういう本を調べると概念そのものではなく「概念の取り扱われ方」がわかるかな。
アン・ディクソン『それでも話し始めよう』(クレイン,2006)
「アサーティブネスとは、/相手の権利を侵害することなく/自分はどうしたいのか、何が必要なのか/そしてどう感じているのかを/相手に対して/誠実に、率直に、対等に/自信を持って伝えることのできる/コミュニケーションの考え方と方法論を/意味します」
1.何が起きているのか 2.どう感じているのか 3.どうして欲しいのか これを建設的な形で伝えることはとても難しい。簡単に非難の色を帯びさせてしまう。 豊富な具体例、しかも同じケースについて失敗を複数出すことで、安易な理解をさせないのが良い。
やはり、夫婦やパートナーシップに関わる問題について大事なのは個々の考え方を深く知ること以上に、2人が共有の方法論を知り、それを参照できる形で、自分たちの実践を反省的に振り返り、より良いやり方を試してみることができる関係になることだな。
京極『医療関係者のための信念対立解明アプローチ』(誠信書房,2011)
10.信念対立とは「それぞれが自分の信念を自覚することなく絶対視することにより起こる根源的な対立」だという。
39.「 共感の定義は多々あるが、分野を超えた大枠としての共感の定義として、「認識的共感」と「情動的共感」があり、前者は意識的に制御可能な他者の状況やプロセスを理解すること、後者は身体的反応を伴いながら情動を無意識に同期することを指す」
41.「 「心の理論」とは、ある行動を了解したり予測したりする方法として、自分自身や他者に特定の精神状態(たとえば、信念、欲求、意図など)を帰属させる能力を意味する」
48.「 和解の世界が注目するナラティブ・アプローチは、そもそも臨床心理学における手法である。「ナラティブ」には、「語り」(行為)と「物語」(産物)の両方の意味が含まれている。」
発達障害
イルセ・サン『敏感な人や内向的な人がラクに生きるヒント』(Discover、2018)
29.「自分とは異なるタイプの人の特徴を知ることで、この世界にこんな多様な考え方や生き方があるとも気付かされますし、そして何より、他の人が自分と別の反応を示すのは、相手や自分に問題があるからではないと言うこともわかるはずです。」他者の持つ合理性をどこまで安易に切り捨てないか。
「自分の性格がどのタイプに当てはまるか知ることには、十分な利点があるのです。あるがままの自分を受け入れるとは永遠に休息したり、停滞することではありません。自分を受け入れ休息し、あるがままに受け入れる期間と、成長しようと努力する期間を交互に切り替えるようにすると良いでしょう」
「何歳になっても、人生のあらゆる局面でそれぞれの可能性と困難があり、その都度自分と向き合い、取り組んできた問題を新たな方法で乗り越える必要があります。(…)私たちは一生、成長し続けます。人生のとある段階で解決できなかった問題も別の段階に行った時に動き出すことだってありえるのです」
158.「発達の特性があることがわかってきたら、その特性に合わせて生活環境を整えることが大切です。そのようなアプローチを「環境調整」といいます。環境調整と言うのは、一般的には、特性を周りの人に理解してもらい、周りの人と一緒に生活環境調整していくことを指します。」
結局のところ最後は「さて、どうしていくか」なのだからこそ、そのためには「何が問題なのか」の認知が構造上絶対に必要。そして問題の認識は本人の自覚だけでは難しく、近いケースを見ることでそれを補助できる。
関係の不和においては、要求型と調整型がいる。自分は変わらず相手に変化を求める者と、相手に変化を求めず自分の認知や働きかけを変えようとする者と。これはどちらも片手落ちなのだ。自分と相手の「関係」を健やかにしようと双方が思うなら、違う動きが求められる。
148.攻撃性は大きく3つの形
1.積極的攻撃:怒りと共に相手を責める強い感情を伴ったあからさまなもの
2.受動的攻撃:強い感情は伴わないが、愚痴/皮肉っぽく、嘲るような言い方(不満、陰口、上から目線での批判)
3.要求的攻撃:「〜してください/してくれないと困ります」など理詰めな要求の形を取る最大の問題は、特に後ろ2つは自分が攻撃的であることの自覚すらなく、故に無意識に人を傷つけ、結果的に関係を失ってしまうところにある。反省も改善もせず、相手が悪いと思うままで、自分は何も変えず、変えられず、生きていくことになる。
親との関係、愛着障害、アダルトチャイルド
他者との関係の持ち方は、親から学ぶ。その中に不適切なパターンが含まれていた場合、友人や恋愛関係でも再現され、維持したい関係を自ら壊してしまう。その不適切なパターンを自覚し、原因を理解したうえで適切に取り組むことで、人は他者との関わり方をよりよくできる。大切な人を大切にできる。
17.「コンスタントに「毒親」であり続けるには、相応の理由があるのです。例えば、親が発達障害や不安定な愛着スタイル、うつ病、統合失調症、なんらかの依存症などの精神科的問題」があれば、頑張っても毒親としての振る舞いを修正することが難しい。
30.本書の定義「毒親とは子供の不安定な愛着スタイル(2,3)の基盤を作る親」愛着スタイル1.安定型 2.不安型/援助と突き放しがランダム、親の不安定が原因で、不安が関係のベースに 3.回避型情緒的/やりとりがなく、援助希求ができない、交流から得られるものへの信頼がない、諦め
54.毒親を作る精神医学的事情1.発達障害タイプ2.不安定な愛着スタイル3.鬱など臨床的疾患(依存症も)4.DVなどの環境問題自分もASDが強く、1になりうる。「心の理論(人がこう考えるだろうという「読み」の力)がインストールされておらず、パターンを繰り返して学習するしかなかった。
107.解放からのステップは1.自分は悪くなかったと認める2.怒りや混乱の感情を受け入れる3.親にも事情があったと認める4.親にできることを整理する5.現実的な付き合い方を考えるこれは順番が非常に重要。1や2を飛ばしてはいけない。
18.本書での「不健康で過剰なコントロールをする親」の定義「子供の成長をはぐくむためではなく、自分(たち)を喜ばせ、自分(たち)を守り、自分(たち)のためになるように行動する親」である。
27.「苦痛に満ちた子供時代からの癒しは、長年にわたる虐待とコントロールが原因で湧き上がってくる全ての感情と言い分を、はっきりと言葉に出して表現するところから始まる」同時に・子どもの頃に親がしたことに自分は責任がない・大人になったいまの人生には、自分が責任があるの認知も重要。
複数の観点からものを読むことは本当に面白い。ある本では「コロコロと言うことが変わる親」と指摘されるものが、ある本では「ASDに多い瞬間的な反論/反撃」として表現される。より複数の観点から物事を捉えられれば、因果関係の「バリエーション」が増え、故に介入による改善施策も増やせる。
直接会わなくても自分が何か選択したり、決断したり、行動したりするときに「けなしたり、禁止したり、非難したり、やる気をくじくようなことを言ったりする彼らの声」が聞こえる。自分の人生を生きるためには、自分の内面から来る声が、自分の声なのか彼らの声なのかを識別する必要がある。
130.アダルトチャイルドには6種類
1.ヒーロー→世間から高い評価を得られる子、頑張ることで家族がバラバラにならない
2.スケープゴート→問題児、この子をなんとかせねばと家族のつながりを強める
3.ロスト・ワン(いない子)→目立たず、注意を向けられない子、家族関係から距離を取って身を守る
4.プラケーター(慰め役)→弱った親を慰め、小さなカウンセラーになる
5.クラン(道化役)→家族の緊張が高まった時に場を和ませるような振る舞いをする
6.イネイブラー(支え役)→偽親とも呼ばれ、家族や兄弟の面倒を甲斐甲斐しくみる、料理など家事もする
アスク・ヒューマン・ケア研修相談センター編『アダルト・チャイルドが自分と向き合う本』(1997)
「小さい頃から少しでも親を助けよう、親の役に立とう、親に世話をかけないようにしようとします。問題を一緒に解決しようとしたり、家庭間の緊張をやわらげようとします。親を庇って、親の秘密を守ろうとします。」これはアルコール依存症の親だけでなくても機能不全家庭ならそうなる。
「子どもたちは自分の感情やニーズ・欲求はそっちのけにして」生きるので、自己肯定感や人との関わり方を見失ってしまう。
41.機能不全家族8のルール
1.問題について話し合うのは良くない
2.感情は率直に表現してはならない
3.言いたいことは第三者を介す
4.非現実な期待-強く、正しく、完全-
5.利己的であってはならない
6.私が言うようにせよ、するようにはするな
7.遊んだり、楽しんだりしてはならない
8.波風を立てるな健康な家族とは問題のない家族ではない。そうではなく、問題を認め感情を適切に表現し、直接に話し合い、お互いの不完全さを受け入れ、変化をワクワクするものと捉えて変わっていける家族。家族という言葉を「職場」「チーム」「人間関係」などと置き換えても良いだろう。
40.ストレート/アサーティブでないコミュニケーション
攻撃型/ドッカン→自分の気持ちを伝える代わりに相手を責め、心配も傷ついたことも「怒り」で表現する
受身型/オロロ→嫌われたり拒絶されるのが怖くて感情にふたをして我慢する
作為型/ネッチー→遠回しな態度や言葉で人を操ろうとする
スーザン・フォワード『毒親の棄て方(Mothers who can’t love, a healing guide for daughters)』(新潮社、2015)
成人発達理論
岩崎『成人の発達と学習』(NHK出版、2019』)
109.変容的学習「危機的ライフイベントや人生経験に遭遇した時、これまでの問題解決方法は役に立たない。罪悪感や羞恥心といった感情とともに自己分析を行いながら、前提となる考え方を批判的に評価し、異なる選択肢を探して新たな行動を起こすことこそが肝要なのである。」
本書が取り上げるのは加齢、心理的発達、記憶と学習方法、学習動機、学習資源としての経験、アンドラゴジー、自己決定学習、変容的学習、ナラティブ学習、身体化された学習、組織における学習、社会関係資本、キャリア理論。
加藤『成人発達理論による能力の成長』(日本能率協会マネジメントセンター、2017)
ロバート・キーガン『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版、2013)
165.部下に権限委譲したいのにできない、常に忙しくプライベートなどを犠牲にしている。そんな人の多くが当てはまりそう。自分の有能感を捨てられないから、人にいつまでも頼って欲しいから、権限委譲はできない。
しかしどれほど臨床心理の知識群がこれらのトピック、例えばマネジメントやリーダーシップと関係しているかというと、驚くべきほどである。しかし臨床心理(あるいは精神科、カウンセリング)が「弱い人のもの」と思っている限り、これが最も必要な人たちにこそ届かないのであるなあ。
414. 「あなたの組織では、人々の重要な感情をテーブルの上に乗せられているだろうか? それとも感情はテーブルの下に隠されたものだろうか? 感情が表面に出されている場合はその感情が個人レベルと集団レベルの学習を促進するだろうか? あるいは学習の妨げになっているだろうか?」
ウィリアム・ブリッジズ『トランジション』(パンローリング、2014)
21.「大きく言うと次の3つの時期を経過するように思われた。すなわち、「何かが終わる時期」「困難や苦悩の時期」「新しい始まりの時期」の3つである」すべてのトランジションは終わりから始まる。今までの自分では解決できない課題と出会う。これまでの自分が終わろうとする。不安に満ちる。
188.「トランジションそのものは、これまで信じてきたものや思い込んできたもの、これまでの自分のあり方や自己イメージ、世界観、他者との接し方を手放すことから始まるのである。」
195.「トランジションのさなかにいる人は、なぜだかよくわからないままひとりになって、日常の些末事から遠ざかろうとする。湖畔の貸別荘で長い週末を過ごしたり、シティホテルに数日間ひとりで泊まったりする(…)。「しばらくの間、ひとりになりたかったんだ」と(…)しか言いようがないのである。」
ロバート・キーガンほか「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」
発達志向型組織という概念、真新しいのでドキドキしながら読んでいます。ポジティブ心理学に対するよくある勘違いが前書きに含まれているのは残念ですが(能力の開花、成長や実現欲求を含んでいないと考える)、EQやコーチングのような文脈と相性の良いもののようです。
ここで強く主張されていることは「大人もまた、子どもと同じように知的に発達し続けることができる」ということ。痛みを伴うが内省を通して成長しつづけることができる。それは単なる論理思考力などではなく、人格的な成長も意味する。
ターシャ・ユーリック「inght」
自己認識(自分は自分をどんな人だと考えているか、他人は自分をどんな人だと考えているかについての理解)は、あらゆる場面の人間関係においてとても重要だ。そしてもっと重要なのは、この能力は伸ばすことができるという点だ。
この能力がないと、人を傷つけたり苦しめたりしてもわからない。無作法な振る舞いにも無自覚で、なぜ信頼や安心が共有できないかもわからない。この改善に非常に重要なのはフィードバックだけれど、人は「真実の指摘よりも、傷つかない嘘」を選ぶので、耳に痛い指摘ほど自分のところにやってこない。
幸福
ショーン・エイカー「幸福優位 7つの法則」
前野「幸福学×経営学」
トム・ラス「幸福の習慣」
前野「幸せのメカニズム」
島井「幸福の構造」
デレック・ボック「幸福の研究」
キャロル・グラハム「幸福の経済学」
(主観的)幸福という概念を捉えるのがいかに難しいのかを教えてくれる良い本でした。特に面白いのが「肥満は主観的幸福を下げる要因になるが、周りに肥満が多ければその効果は弱まる」という研究。近い属性で集まればスティグマは薄くなり、生きやすくなる。それを幸福と呼ぶのか?
ブルーノ「幸福度をはかる経済学」
1.所得が増えるともっと増やしたくなる(満足しない、上を見続ける)
2.所得の上昇による幸福は短期で影響力を失う(すぐに慣れてしまう)
3.隣人や同僚、家族との比較で満足度が変わる(人と比べる)マーティン・セリグマン「ポジティブ心理学の挑戦」
仏教思想・瞑想
草薙「clean 心を洗う技術
『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門』(春秋社、1999年)
感情、思考と肉体
ディラン・エヴァンズ「感情」
ステファン「ポリヴェーガル理論入門」
「人間は生理学的状態によって動かされており、社会的な援助や行動の神経回路は「健康」「成長」「回復」を促進する…同じ神経経路なのです。心と身体、そして脳と身体の科学は…本理論の視点においては同じものなのです。」
ジョセフ・ルドゥー「エモーショナル・ブレイン」
エレーヌフォックス「脳科学は人格を変えられるか?」
アントニオ「デカルトの誤り」
アドラー心理学
岸見『愛とためらいの哲学』(PHP新書、2018)
54.アドラーは自分や他人、世界についての信念体系を「ライフスタイル」と呼ぶ。一般に「性格」と称されるものに近い概念だが、性格という言葉を使うと生まれつきで変えにくいと考えられがちなので違う言葉を用いる。臨床心理で「繰り返されるコミュニケーションパターン」と呼ばれるものも類似。
岸見『生きづらさからの脱却』(筑摩書房、2015)
複雑な異なる複数のシステムの獲得、関わる他者によってそれを適切に出し分ける汎化された信念、自己と他者の変容可能性の信頼と方法の理解、他者を「汝」と扱う姿勢、関係がもたらす価値の確信と維持努力への意欲まだ十分に整理できてないけれどこの辺りを紐解いていきたい。
25.「アドラー心理学では、行動や症状の原因ではなく目的を探る。本書では、原因論と目的論を対比し、人の行動、症状には原因があるが、多くの場合、意識されていない目的こそが人が前に向けて生きることを可能にすることを明らかにする。」これは免疫マップとも関連する考え方。
54.自分のライフスタイルを知りさえすれば、その後どうするかは自分で決められる。違うものを選ぶには、まずそれを変えないという決心をやめる。そして、どんなものを選べばいいか知っておかなければ、変わりようがない。今の自分の課題を認識し、異なる可能性を知り、そこに移行しようとすること。
207.「言葉を発しなくても相手を思いやるべきだと言う人は、同様に自分が何も言わなくても自分が何を考え感じているのかわかるべきだと他者に期待し、さらには要求する。そしてもしも自分が期待するように他者に理解されなければ怒る」
207.「他者がたくさんの言葉を発しないのであれば、他者の言動に良い意図を読むことが必要である。しかし自分は他者が誤解することがないようにできるだけ多くの言葉を尽くして自分の考え、意思を伝えることが大切である。」
課題を分離した上で、自分のできることを見出す。それに加えて、相手への働きかけをも自分の変容対象として捉えて努力する。内省を通した自分の感情、思考の言語化も自分に責任がある。得意でないことには人に頼ることもまた自分に責任がある。そして他者のそれに気付こうとすることもまた然りだ。
岸見『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社、2013)
同『幸せになる勇気』(ダイヤモンド社、2016)
臨床心理学に欠けているのは「幸福とはどのようなものか」という広い射程であるように思う。不全、非機能についての方策は非常に有効であるが。一方アドラー心理学はこの対称関係にあり、やはり具体の方策までは哲学からすんなりと落としづらいのか、僕の理解がまだ及んでいないのか。
「わたしの過去」が、わたしによって編纂された物語に過ぎないことはよくわかる。だからこそナラティブを語りなおすこともできる。過去に目を向け原因論的な立場を取ったとしても、語りなおしの余地がある限り私たちは過去から始めて「これから」を話せるのではなかろうか。
岸見『幸福の哲学』(講談社現代新書、2017)
岸見『アドラーをじっくり読む』(中公新書、2017)
コーチング
伊藤守「コーチングマネジメント」
コーチ・エィ「コーチングの基本」
ヘンリーほか「コーチング・バイブル」
おすすめは「コーチング・バイブル」と「コーチングのすべて」です。特に後者は歴史的な整理を行いつつ、多様なスタイルのコーチングについて包括的かつ中立的に紹介していて好感が持てます。
ロバート「ポジティブ・コーチングの教科書」
ポジティブ・コーチングは、これまでのタイミングで持続的幸福をキーワードに学習していたため親和性が高く、良いインプットになりました。
ジョセフ・アンドレア「コーチングのすべて」
ストレス、上司・部下の関係
内田「レジリエンス入門」
「レジリエンスとは、知識を増やすことではなく、視点を増やすこと」というシンプルな一言に全てが詰まっていた1冊でした。
ケリー・マクゴニガル「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」
島・佐藤「ストレスマネジメント入門」
70p「職場という舞台では交感神経が優位になって興奮状態となりますから〜能動的に活動しているように見え、エネルギーが目減りしてきていることに〜気がつきません。〜深夜にベッドに入っても興奮は冷めやらず、なかなか眠りは訪れない。〜何とか出勤すればアグレッシブに仕事をこなす〜」
アンガーコントロール、援助希求能力、アサーションなどこれまで色んな場面で知っていた情報が新しい文脈で整理された。
高山・平田「ストレスマネジメントの心理学」
見波「上司が壊す職場」
仕事のストレスを受ける主体ではなく、与える主体にもなり得る立場なので気をつけたい。
感情が理解できず視野の狭い「機械型」
感情がコントロールできない「激情型」
有能とみられることが目的の「自己愛型」
他者を道具としてしか見ない「謀略型」
松本「上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?」
評価制度の重要性。何を、なぜ評価するのか。それと報酬はどう関係するのか。「成長したい」と思う労働者などほとんどいない、など明確なメッセージも多く面白い。
荒井「こんな上司が部下を追いつめる」
昨年末の自分がいかにチームの人たちの気持ちや人格を無視していたかわかりすぎて吐きそう。声を挙げていただけたことに感謝すると共に、それを受けて自らを改善し続けなくてはと思う。営業も物凄く大事だけど内部調整も同様に大事なんよなあ。利益を出すのは前提として…難しいがやらねばならぬ。
pp71「人間関係の悩みとして最も多いのは、残念ながら「対上司」である。ほとんどの組織体で当てはまり(…)進言しても仕方がないと悟った部下は、次第にモノいわぬ部下になってゆく」声を挙げてもらう、それに応えるということをなんとしてもやらねばならない。
人事・組織
中原・長岡『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社、2009)
004.「多くの企業において「課題」だと認識されていることの根源は、実は、「組織内のコミュニケーションのあり方」に原因を持つことが多い(…)情報共有、理念浸透などの問題は、個別に対応する問題というよりも、皆、根源的には「ビジネスの現場で支配的なコミュニケーションのあり方」に原因があ」る
本書の対話の定義→人々が物事やそれぞれの立場を理解したり、わかったことを行動に移したりする。これらのきっかけになる「創造的なコミュニケーション」
101.「「議論」とは最終的に何かについて意思決定する場ということです。(…)「選択肢を事前に用意し、その中から意思決定する」というプロセスです。(…)「対話」というのは、(…)前提となっている選択肢の可能性をもう一度探るとか、評価の基準そのものを再吟味する」」両者は補完関係にある。
協調学習の過程1.それぞれの視点から独自の理解を持つ2.自己の理解を他者に説明する(説明役とコメント役といった役割が生まれる)3.相手が異なる理解をしていることに気づく4.学習者間の理解の不一致は、相互の理解をより高次なものに引き上げる
宇田川『他者と働く』(NewsPicksパブリッシング、2019)
006.本書における「対話」とは、「見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解決できない問題である「適用課題」をいかに解くか」に機能するもの。「一言で言うと「新しい関係を構築すること」
033.「「上司たるもの/部下であるならば、こういう存在であるはず」という暗黙的な解釈の枠組み」、これもひとつのナラティブ。
107.「下の立場の人には、いくらでも上司を悪者にして自分を正当化する逃げ道があります。これに比して、上に立つ人々には、そうした逃げ道がありません。そして必要以上に被害者として自分を感じてしまって、メンバーを信頼できなくなってしまうことがあります」
西尾「評価基準」
続いて曽和「人事と採用のセオリー
南「人事こそ最強の経営戦略」
海老原「人事の成り立ち」
ピョートル「世界最高のチーム」
新居「組織の未来はエンゲージメントで決まる」
丹羽「パーパス・マネジメント」
西尾「人事ポリシー」
ポール・J・ザック「TRUST FACTOR」
海老原ほか「人事の成り立ち
稲葉ほか「経営組織」
金井・高橋「組織行動の考え方」
中原・中村「組織開発の探求」
野田「組織論再入門」
松本「社長は君のどこを見て評価を決めているのか?
堀ノ内「人事・賃金制度 はじめに読む本
松本「成果主義人事制度をつくる」
山元「人を育てる賃金制度の作り方」
榎本「A4一枚評価制度」
ロバート・フリッツ『偉大な組織の最小抵抗経路』(Evolving, 2019)
佐藤・山田『制度と文化 組織を動かす見えない力』(日本経済新聞社、2004
カール・E・ワイク『センスメーキングインオーガニゼーションズ』(文眞堂、2001)
ハーバードビジネスレビュー「共感力」