GADHA変容プログラム入門レポート#2

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本記事の目的

本記事は、GADHAが提供する加害者変容プログラムに関心のある方が持つであろう、

  • どんな人が参加するんだろうか
  • プログラムでは何をするんだろうか
  • 自分はこれを受けたら変われるんだろうか

といった疑問に応え、今後のプログラム参加を検討できるように情報を提供することを目的とした「GADHA 加害者変容プログラムとは何か」のシリーズ記事となります。

他記事や加害者変容プログラム自体に関心のある方は、こちらの記事をご覧ください。

初級プログラム参加者の方々による座談会を開催しました。その様子はこちらからご覧ください。GADHA変容プログラム初級参加者座談会

プログラムの構成

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プログラムは5つの要素によって構成されています。それらの順に従って、会の様子をレポートします。

チェックイン

チェックインでは、この1週間で感じていたこと、起きたこと、パートナーとの関係などを形式不問で自由に共有します。

「最近久しぶりに話をしたときに、加害をしなかったと思う。でも、自分がそう思っているだけで、本当にできているかはわからない…」

「いつもなら加害をしてしまうような状況であることを自覚し、意識していたら加害をしなくて済んだ。こうやって加害を減らしていきたい」

「いつものように加害をしてしまったときに、あっ、これはまたやってしまった。自他境界を踏み越えるか害をしてしまった。と認識できた。もちろん未然に防げたらそれが一番なのだけれど…」

というように、一週間の状況を共有しあいました。全体として、それぞれが自分の普段の生活の中にある加害、その後ろにある自分の考え方に気づき始めている(とはいえすぐに変えられるわけではない)ようです。

ホームワーク×ケーススタディ

続いて、ホームワークをシェアして、それに対して考えや感想をシェアしていきます。

GADHA変容プログラム初級レポート#1でみなさんに共有したのは「氷山モデルワーク」です。以下のような形で、自分の加害行動、類似事例、それらに共通するパターン、その時頭で考えていること、その前にある感情、感情を生み出している世界観などを掘り下げていきます。

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このワークは、以下を目的としています。様々なフレームワークがあるのですが、好き嫌いや得意不得意もあるので、色々な方法で「内省する力」「自分のことを見つめ直す力」を身につけることを目指しています。

  1. 自分自身について振り返り、内省する方法の1つを身につける
  2. 次回「では、どうするか」と改善に繋げるための具体例として用いる

自己肯定感の低さが攻撃を生んでいる?

この氷山モデルのホームワークをケースとして用いて、ケーススタディを行ないます。他の参加者から異なる視点を共有されたり、「わかるわかる」と同意を受けたり、「もしかしてこうなんじゃないか?」というような考えがシェアされたりします。

今回の氷山モデルの中で重要だった話はいくつもあるのですが、その1つが「自己肯定感の低さが不安を、不安が攻撃を産んでいるのではないか」という気づきでした。

加害者がなぜ加害をしてしまうのか。その理由の一つは弱く、傷つきやすい心にある。そして自分の傷つき・悲しみをそのまま受け止めることができず、怒りに転換して攻撃する。

では、そのような自己肯定の低さはどこからくるのか。それはどうすれば変えることができるのか。ここでは紙幅の関係で省略しますが、いくつもの子供の頃からを含む実体験が共有され、学びを得られました。

被害者のふりをしてしまう加害者

また、今回のケーススタディでは非常に重要なことがおきました。それは、以下の氷山モデルを提出していただいた方について話す時です。

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これを一般の人が見たら、まず間違いなく「それはパートナーも悪いのではないか。あなたの行動は普通だし、そんなに責められるようなことではない」と思うだろうと思います。実際、他の参加者の方もそのような反応を示しました。

しかし、これを見て僕は強い違和感を覚えました。

「もしかして、あなたはパートナーの方が欲しいと言ったものや、必要だと思ったものを買わないことが結構ありませんか?」

「あなたのパートナーが、パートナーの友達が困っていることや悩んでいることを共有するときに、そんなことどうでもいいといった態度をとっていませんか?」

「家に友達を連れてきて、ひどく酔っ払ったり、大騒ぎしてパートナーを困らせたことはありませんか?」

といったことを聞きました。答えの全てが(確かというものもあれば、そうかもというものありましたが)YESでした。

つまり、このように現象を捉え直すことができると言うことです。

「あなたは会ったこともないシングルマザーには10万円も寄付をするのに、目の前にいる私が必要だと思ったものにはお金を使わずに、必要なのかどうかといったことを聞いてくる。私の優先順位は、その人たちよりも低いのか…どうして私を大切にしてくれないのか」

「私が友達の悩みを聞いたり、それについて話すことは時間の無駄だと言うような態度をとるのに、自分は友達の悩みに向き合ってあげて、それがすごいこと、いいことのように振る舞うんだ。それだって利益にならないでしょう!」

「あなたは友達付き合いが大事だと言うけれど、それによって私が大変な目にあっているのに、それは無視して「支え合い」とか言っている。私が友達を呼んでもあなたは困らない。あなたが友達を呼ぶことで、私は強い負担を受ける、どうしてそれをわかってくれないんだ」

これは僕の推測に過ぎませんが、僕の質問に対する回答がYESならば、十分にありえることです。自分がした加害に気付いていないから、それへの怒りとしての反発を受けて「自分が傷つけられた、自分が被害者だ」と思ってしまっているのです。

自分が先に相手を傷つけているのです。

相手を傷つけているのに、それを自覚せず、むしろ相手が加害者だと考える。これ以上の加害はないでしょう。

この状態では、決して変容することはできません。いくらパートナーを変えても、繰り返してしまうでしょう。しかし、それに気づくことができれば変わることができます。

これを指摘することは大変勇気のいることで、正直に言って、それを指摘する声が震えてしまいました。ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を与えることになることがわかっていたからです。

もっと良い言い方がなかったか、もっと受け止めやすい表現はなかったか…と現在進行形で僕自身も悩んでいますし、今後も考え続けていきます。

なぜ私たちは加害者性を持ってしまったのか?

また、最後に「加害者である私たちに共通していることってなんなのか? というか、その共通性はどこからきているのか?」という質問もここでいただきました。

いろんな理由がありますが、その一つには間違いなく親との関わりがあると考えています。自分の弱さを含めて存在を肯定されなかった人は、人の弱さごと肯定する能力に欠け、相手に完璧を求めます。完璧な人間などこの世にいないのに、理想化された存在と現実の目の前にいる相手を常に比較し、差分を責めます。

理想とは何か。それは、自分のニーズを完璧に満たす存在です。現実にはない「理想の母親像(という幻想)を追い求めているのです。それは、自分が欲しかった愛情です。赤ちゃんと同じです。でも、それは手に入りません。完璧な人はこの世界にいないからです。

自分の弱さを認めてもらえないから、相手の弱さも認められない。不完全さも然り。だから、すぐこの世界を敵か味方で捉えます。相手の複雑さを受け止められません。自分の複雑さ(AAだけどBBなところがある、といった)も受け止められません。強い自分、優れた自分であろうとし、相手にもそう思って欲しくて仕方がありません。

しかし、皮肉なことにそのような考えが相手からの愛を遠ざけます。相手に愛を求め、完璧さを求めることは、相手を否定することです。目の前にいるこの人ではなく「何か理想化された存在」を見ているということを、されている側は気づきます。それはとても傷つき、生きづらいことです。

自分の弱さを認めていないから、相手にニーズを満たしてもらったことに感謝しません。「当然」とみなし、それをしないことは「怠慢」だと考えます。本当は誰よりも自分が相手に依存していて、ケアをしてもらっているのに、弱さを認めていないからそれに感謝できないのです。

つまり、究極的に必要なことは3点です。1..自分が脆弱で、依存をしている、弱い人間であること、それを恥ずかしいと思っていたり、そうでありたくないと思っている自分ごと存在を認めること。

そして、2.それは他の人も同じであり、完璧な人などどこにもいないということを認めること。

最後に、3.だからこそ自分が相手の不完全さ、脆弱さ、弱さを受け入れ、そこにあるニーズを満たそうとケアすること。それを通して相手もまた自分への感謝と共に、自分のニーズを満たそうとケアしてくれること。その相互の信頼だけが、本当の意味での「自己/他者受容」だと気づき、実行することです。

レクチャー×ディスカッション

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続いてレクチャーです。加害者変容理論でまとめている内容を読んでいただいている前提で、さらに踏み込んだ最新の知識を紹介します。

そこでは具体例を大量に使い、可能な限り参加者の加害パターンなども引き合いに出しながら、理解しやすい形でお伝えします。

今回は、「幸福/不幸な関係を作る言動」についてのレクチャーです。

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GADHA変容プログラム初級#1 では幸福/不幸な関係とは何か、ということについてレクチャーしました。そこから続いて、ではそのような関係を作る「言動」とは何かに着目していきます。

具体的には

  • 不幸な関係を作る「解釈強要」
  • 幸福な関係を作る「共同解釈」

の違いを、具体的な事例に即して考えていきます。解釈強要をよくしてしまうような状況を前にした時に、それぞれのパターンを考えてみます。

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どちらの状況も、DV・モラハラ加害者が相手を攻撃してしまう頻出パターンです。ちなみに、これらのパターンは全て実際の加害エピソードから引用しています。パターン分析プロジェクトはこちらを参照ください。

共同解釈について触れた人は、まず間違いなく「じゃあ、これからの人生ずっと相手の言うことを聞いて生きていかないといけないのか?」と聞かれます。

しかし、そんなことは全くありません。それは依然「上下関係」「支配と服従の関係」という考えを持ったまま、ただ移動しただけです。そうではなく、関係は対等でありえるという話をします。

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しかし、ここで大事なのは私たちが「加害者」であり、関係にはすでに負債があるということ。ここを取り違えて「対等なのになんで…」と思ってしまうのは不幸の始まりです。

共同解釈には信頼が必要です。その積み重ねがあって初めて、自分のために変わってくれるこの人のために、自分も変わりたいと思います。その相互信頼を破壊し続けてきたのですから、その罪は引き受けないといけません。

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心の中、考え方を変えるのは簡単ではありません。だから、まず言動を変える。しかし言動を変えても簡単に相手が信頼を取り戻してくれるわけがない。一生取り戻せないかもしれない。

その苦しみや弱音を、GADHAの当事者会やこのプログラムの中で、吐き出しながら、なんとかかんとか、この大変な加害者変容と向き合っていこう、という話になりました。

ホームワークの説明

ここでは、次回に向けたホームワークの概要や目的を共有します。今回は「内的他者面接法」を用いて、加害行動分析ワークを行います。

簡単に言うと「被害者になったつもりで、あなた(加害者)宛の手紙を書いてみてください」というものです。

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あえて想像で書いてもらうのには理由があります。

1つは相手に聞くことが、相手の苦しい記憶を思い出させることになり加害になり得るから。

もう1つは、それを聞いた時に思わずその場で反論したり、怒ったり、不機嫌になったり、傷ついたりすることを通して、相手に罪悪感を与える形での加害になり得るから。

最後は、他者の気持ちを想像ということ自体が非常に重要だから。何か物事が起きた時に、自分の立場ではなく相手の立場からはどのように見えているのかを想像する力が重要だと考えます。

これはかなり心理的負荷が高いものになりますが、詳細は次回のレポートをご覧ください。

チェックアウト

最後に今回のプログラムに参加して、胸の中にある感情や考えをシェアするのがチェックアウトです。

「非常に濃い時間、多くのことを学ぶことができた。かなり精神的にきついものもあるのだけれど、そのためにここにきたので、ポジティブに考えている」

「ここにいる人たちを、仲間だと思えている。他の場所ではとても話せない、恥ずかしくて情けない自分、弱い自分について話すことができて、安心するというか…よかった」

「ハンマーで頭をぶん殴られたようなショックで、まだいろんなことが折り合いがついていない。けれども、変わりたい」

「具体的にどうすればいいのか、どうすれば変われるのか、ということを明確に示されるのがとてもいい」

こういった言葉をシェアしあいました。僕自身、非常にハードな時間だったのですが、しんどい変化を、でも安心できる仲間、同じ境遇の人間として分かち合う信頼が生まれつつあるように感じます。

やはり、自分の加害行動を話し、お互いにフィードバックする関係というのは、友人でも、というか友人だからこそ、なかなか得られないことだと思います。

自分の弱い部分を話すのは勇気がいりますし、相手の弱い部分を指摘することもとても勇気がいります。ここには、自分たちの弱さについて本気で考え、苦しみながら、支え合える、極めて特殊で、できるならば広く社会に広がってほしい関係があります。

まとめ

以上がGADHA加害者変容プログラム初級第2回のレポートとなります。本記事は、GADHAが提供する加害者変容プログラムに関心のある方が持つであろう、

  • どんな人が参加するんだろうか
  • プログラムでは何をするんだろうか
  • 自分はこれを受けたら変われるんだろうか

といった疑問に応え、今後のプログラム参加を検討できるように情報を提供することを目的とした「GADHA 加害者変容プログラムとは何か」のシリーズ記事となります。

他記事や加害者変容プログラム自体に関心のある方は、こちらの記事をご覧ください。

現在、来月の初級プログラム参加者を募集しています。日程は3名以上希望者が集まった時点で調整を開始します。ぜひお気軽にご連絡くださいませ。

終わりに

G.A.D.H.A(Gathering Against Doing Harm Again:ガドハ)は、大切にしたいはずのパートナーや仲間を傷つけたり、苦しめたりしてしまう「悪意のない加害者」が、人との関わりを学習するためのコミュニティサービスです。

当事者コミュニティとイベントの運営加害者変容理論の発信トレーニングなどを行い、大切な人のために変わりたいと願う「悪意のない加害者」に変容のきっかけを提供し、ケアのある社会の実現を目的としています。

当事者コミュニティやトレーニングに関するお問い合わせはこちらから。

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