記事の目的と構成
本記事は、GADHA加害者変容パターンランゲージプロジェクトがどのように進んでいるのかを報告し、興味のある方が参加できるように雰囲気をお伝えするものです。
パターンランゲージとは何か
「変わりたい」と願う悪意のない加害者が変容することを目指して、GADHAは独自のパターンランゲージ(以下、PL)を作成・更新・配布して参ります。
パターンランゲージの詳細はこちらよりご覧ください。
出典:クリエイティブシフト「パターン・ランゲージとは」https://creativeshift.co.jp/pattern-lang/ (2021年7月17日確認)
誤解を恐れずに言えば、GADHA PLとは
- こういう状況の時に
- こういう加害が頻発するが
- こうすればそれを避けられる
という、問題状況→加害行動→解決策/代替行動がまとまったノウハウのようなものです。
加害パターン分析会とは何か
加害パターン分析会は、GADHAのPLを作成するにあたって、加害当事者たちが自分たちの行なっている加害について、PLのフォーマットに則って共有・ディスカッションする会です。
ここでPLのフォーマットとは以下のようなものです。オリジナルから、目的に合わせてアレンジしており、今後も変更の可能性があります。
- 不穏状況(Risk):このパターンを必要とする不穏な状況
- 加害言動(Violence):その状況で繰り返してしまう加害
- 加害信念(Violent Belief):加害を生む考え方
- 配慮信念(Caring Belief):加害を生まない考え方
- 配慮言動(Care):安心してくつろげる関係を作る言動
- 安心状況(Relief):配慮によって生じる安心してくつろげる状況
今日の進行
本プロジェクトは最終的にGADHAのPLを作ることを目的としていますが、ひとつ成果物がないとなかなかイメージがわかないだろうということで、その作成を目指しました。
具体的には、これまで収集してきた加害パターンを取り上げ、全員が共通認識として「あるある」と判断したものについて、上記のフォーマットのように理解するとどうなるかを考えました。
以下に、それを共有します。ただし、本日は1つに絞り込むところまでは進まず、1-6それぞれに複数の表現が残っています。
粒度も様々で、まだそれぞれの項目の定義が厳密じゃないので少し読みづらいと思いますが、経過を報告するために、あえてそのまま一部抜粋します。
また、すべてが実際の加害エピソードに基づく内容です。
1.不穏状況
- 高いレストランとかに連れて行ったのに相手が不満げ
- 記念日に相手は「普通のとこでいい」と言っているのに高級レストランのフルコースを検索しているとき
- 自分の家事の範囲じゃないのに洗濯物を片付けて「あげたら」、そのやり方に不満を言われた
- やってあげている自分を演出したいとき
- 相手が喜んで欲しいんじゃなくて、相手に「感謝」して欲しくて行動している時
2.加害言動
- 「せっかくなんだから良いところにしようと思ったのになんで素直に喜べないんだ」と詰る
- キレてレストランから出る「じゃあもういい、帰る」「離婚しよう」
- 「なぜ素直に(僕の思い通りに)喜ばないのか」
3.加害信念
- 人が好意としてやったことに対して否定で捉えることは人間としてどうなのかな。喜んだふり/感謝くらいするものだろう
- 一生懸命にやってることを認めるべき
- 他にも何かをやっているのになんでできていないことだけをせめて、良いところを認めたり褒めたりしてくれないのだ
- 基準が厳しくないか(例えば洗濯物とかも、やってるんだから良いじゃん。やり方とかまであんま言わなくて良いじゃん。基準が違うという前提の元、自分の基準の方が正しいと思っている)
- なんでイライラしているんだ、もったいないなあ(それって自分の楽しみたい気持ちを毀損されているだけ!)
4.配慮信念
- ほんとうは「努力を認めてほしい」「自分の精一杯が実らないことにじぶんの価値とか能力がないのかもという虚無感があったりするということに気づく
- 「嫌われる勇気」にあるように、相手の不機嫌は相手の課題であって自分の課題ではない、相手の感情は相手の感情で、土足で踏み込んでいけるものではない
- 相手を喜んで欲しくてやったことで相手が喜ばないなら、変わるべきは相手じゃなくて自分である(むしろ、不機嫌な姿を見たら申し訳ないと思う方がナチュラルじゃない?)
5.配慮言動
- 「これって今誰のニーズのためにやってるんだっけ?」と自分に問い直す
- 「喜んでもらえると思ったから、残念で悲しい気持ちになってる。どうすればよかったかな?/何が嫌だったかな?」と尋ねてみる(そしてそれを聞いて不機嫌になったりしない)
- PLのカードを見てみる
6.安心状況
- 相手が本当に好きなこととか、相手が本当に喜ぶことか、相手がやられたら嫌なことを教えてもらえることで、次はもっと良い関わりができるようになる
- 相手の期待するリアクションが得られないことはよくある、その時過度にその違和感を増幅して怒りまで持っていかない関係になる
- 相手に受け入れてもらえなかった時、受け入れられなくても気にしない、内面的な強さができる
振り返り
会を終えての感想としては、多くの人が「面白かった」「楽しかった」とコメントされました。もちろん、学びになったというのが大前提です。
通常、こうやって自分の加害行動を人に共有することも、それを真正面から批判しあうことも、ありえません。
しかし、全員が変わりたいと願う加害者であるからこそ、上から目線でジャッジできる人はいないという安心があります。「なんで自分たちはこんなにバカなんだ」と時に真剣に、時に反省と後悔に苦しみながら、時に笑い、進めることができました。
加害者であることを自覚し、それを引き受け変わっていくことは大変な苦痛を伴います。もちろん、被害を受けた方々の苦しみと比べるべくもありません。その贖罪に終わりはありません。
それでもやはり、だからこそ、その苦痛から多くの人が逃げてしまう現実を踏まえたときに、ある種の「面白さ」がある学びの場になったことをポジティブに捉えています。
また、やはりやっているうちにGADHAに合わせたアレンジの必要性は感じつつも、やってみないとわからないことも多いので、今後も目的合理的な変更・改善を続けていきます。
今後の進め方
次回は今回の題材、エピソードを元に1つのカードにするというところまでやりきりたいと思います。その後については、検討中ではありますが、以下のような方針が候補として上がっています。
- GADHA公式のPLを作る前提で、最終的にはひとりひとりが自分の言葉でカードを作るワーク、プログラムのようにできたら「借り物じゃない言葉」で自分の力で反省と改善ができるので、いいのではないか
- このくらいの粒度であるあるを出し合ってディスカッションするだけでも勉強になるから、カードにするみたいなところは運営チームとかワーキンググループを作ってやり、基本はこのディスカッションを中心にすれば良いのではないか
- ディスカッションで出てきたエピソード自体も一つの成果物として、何か利用できないか(カードのQRコードを踏むと、このカードの背景になったエピソードが一覧で出てくるとか)
- まとめることを通して何度も何度も考えることが自分の加害的言動や信念を見直す機会になるから、ぱっと話して「ただ楽しい」ということじゃない学びにするためにも、まとめる作業をやることが大事なのではないか
などなど、今後の方向性は色々ありそうですが、ひとまずは1つ成果物を作ろうというのが、短期的な合意になりました。
なんとか11月を目処にVer.1のPLが完成し、来年1月を目処にPL作り自体をGADHAの「学習プログラム」として位置付けられるように進めていく予定です。
プロジェクトの位置付け
GADHAは誰もが他者を自律した個人として尊重する、支配と従属の関係を強要することもされることもない社会を目指して、DV・モラハラ加害者の変容を支援することで、加害者と被害者のいない、愛ある関係を増やします。
そのためにDV・モラハラ加害者が集まり、学び、語り、作り、実践し、共有することで、愛のあるケアができる人に変わっていく場を作ります。
その場として、ハードル低く気軽に参加できる1から始まり、加害者としての自覚を持ち主体的に学び変わりたい方にはより能動的な学びが可能となるよう参加をデザインしています。
- 当事者会による同じ加害者との関係的な学び(動機付け)
- 記事や読書など受動的な学び(知識収集)
- プログラムや読書会などの協調的な学び(知識理解)
- トラブル由来のケーススタディによる実践的な学び(知識実践)
- コンテンツ/尺度/パターンランゲージ制作などによる能動的な学び(知識生成)
- 次の世代に共有する教育的な学び(知識共有)
パターン分析会ならびにGADHA PLプロジェクトは、5ならびに6に相当する内容になることを意図しています。詳しい活動方針はこちらよりご覧ください。
終わりに
G.A.D.H.A(Gathering Against Doing Harm Again:ガドハ)は、大切にしたいはずのパートナーや仲間を傷つけたり、苦しめたりしてしまう「悪意のない加害者」が、人との関わりを学習するためのコミュニティサービスです。
当事者コミュニティとイベントの運営、加害者変容理論の発信、トレーニングなどを行い、大切な人のために変わりたいと願う「悪意のない加害者」に変容のきっかけを提供し、ケアのある社会の実現を目的としています。
当事者コミュニティやトレーニングに関するお問い合わせ、イベント参加申し込みはこちらから。
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