概要
GADHAは、加害者変容プログラムを実施しています。
GADHA変容プログラム初級レポート#04 では、そのホームワーク&ケーススタディとして手紙を書いてきてもらいました。
その手紙は「自分が弁護人になったつもりで、子供の時の自分を守るために、親に抗議をしてください」というものです。
加害者もまた、多くの場合は被害者です。加害者は自分が与えられた「親密な他者との関わり方」を無意識に再現してしまっているのです。
もちろん、だからといって自分の加害の責任が、被害への責任が無くなるわけではもちろんありません。しかしそれがどこからやってきたのかを知ることは極めて重要です。
加害者変容プログラムに関心のある方はこちらの記事をご覧ください。
本文
MMさん(母親)。あなたは中村くんを愛していると口では言っていますが、本当ですか? 中村くんが、サッカーが楽しくないと言っているのに「最後まで続けることが大事。途中で辞めるなんて情けない」と言っていますが、それは本当は誰のためですか。あなたは、世間体のために言っているんじゃないですか。あなたは何かを成し遂げたっていうんですか?
中村くんは、あなたが試合に応援にくるのが嫌なんですよ。あなたは中村くんがミスするたびに「へたくそー!」とか「ばかやろー!!」と叫びますね。楽しいですか。うまくいったときに褒められたって、そうやって大きな声でなじられたことが帳消しになったりしないんですよ。うまくいったことで嬉しいというより、なじられないでほっとする。そんなスポーツが楽しいわけないでしょ。
それをやり続けて身に付くのは「嫌なことでも途中で投げ出さず頑張りつづけなくちゃいけない」「良いことだったら、相手が望まなくても無理矢理続けさせて良い」という考え方ですよ。それは暴力です。中村くんは、大人になって、それを再現してしまうかもしれないんですよ。相手が嫌がっていても、自分が正しい・価値があると思ったら、相手の意見や考えなんて無視して良いと思うんですよ。あなたがそうしているんだから、それが愛情だって言うんだから。
私はそれが愛情だと思わない。私はMMさんに変わってほしい。中村くんは傷ついているんですよ。試合に応援しに来ないでほしいくらいです。でも、せめてくるのなら、あんな嫌な言い方はしないでください。失敗しても「ドンマイ」「次があるよ」と前を向かせるようなことを言ってください。失敗ばっかりだったときに、帰りの車を重苦しい空気にしないでください。なんで本人よりあなたたちの方が恥ずかしそうな、嫌な感じの顔なんですか。本人が一番自分がダメだったこと、うまくできなかったことを知っていて、それを恥じて、悔しい思いでいっぱいなんですよ。それなのに、なんであなたたちのことまで考えなきゃいけないんですか。
「週末でも応援しに行ってるなんて、熱心な親」だなんて思わない。中村くんは何回もやめたいと言っているのに、あなたがたのエゴでやめさせていないんでしょう。応援でも熱心でもない。あなたは中村くんではなくて、「あなたたちの理想の子供」を見ているんでしょう。中村くんが泣いてやめたいと言っても応じないのはなぜですか。なんで泣いてやめたいと言っているか、真剣に話を聞きましたか。上からおさえつけるようにやめるなんてダメだというのはやめてください。ちゃんと話を聞いてあげてください。
そしてYY(父親)さん。あなたは何をやっているんですか? なんでもかんでも全部妻に放り投げて、妻がヒステリックに子供に怒鳴っている時、何をしているんですか。我関せずって顔してますけど、中村くんが泣いてますよ。あなたの子供ですよね? 攻撃しなければ良いと思ってるんですか。あなたしか中村くんの母親から守ることのできる大人はいないんですよ。あなたが無言でいること自体が、背中を向けて何も話さないこと自体が、中村くんにとってどんなに心細く、不安を産むか想像したことはありますか。
口下手でもいい。うまく言えなくても良い。それでも、中村くんのためにできることがあったんじゃないですか。「まあまあ、中村の言い分もあるだろう」と一言言ってくれるだけで。怒鳴る妻との間に入って、散歩にいくとか、何か気分を転換するような、場の空気を緩和するようなことができるはずですよ。「何もしない」ことで、中村くんが傷つくなら、何かをすることはあなたの責任なんですよ。
あなたがそうやって振る舞う限り、中村くんは「誰も助けてくれない。母親が喜ぶことをしよう。母親が喜ぶことをしたら褒めてくれる。家の中の雰囲気もよくなる」と思うんですよ。子供に、なんて重大な責任を押しつけたんですか。まだ12歳ですよ。子供のケアをあなたたちがするべきであって、子供があなたたちの機嫌をケアするなんて間違っているんです。なんでそんなこともできないんですか。なんでそれで親になったんですか。本当に腹立たしい。結局、あなたの長男も暴力的でパチンコにはまって離婚しましたね。あなたたちの子育て、正しいって本当に言えるんですか? 4人の子供がいて、2人が加害者になるような育て方、とても正しいとは言えない。あなたたちは間違っている。
終わりに
G.A.D.H.A(Gathering Against Doing Harm Again:ガドハ)は、大切にしたいはずのパートナーや仲間を傷つけたり、苦しめたりしてしまう「悪意のない加害者」が、人との関わりを学習するためのコミュニティサービスです。
当事者コミュニティの運営、加害者変容理論の発信、トレーニングなどを行い、大切な人のために変わりたいと願う「悪意のない加害者」に変容のきっかけを提供し、ケアのある社会の実現を目的としています。
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