はじめに
この記述はあくまでも形式的な知識であり、加害者変容には共に学び変わっていく「仲間」との相互協力、プログラム内レクチャーなどの「実践」が重要になります。
これらなくして変容に取り組むことは容易ではありませんので、主催者を含むメンバー同士の知識とケアを交換する場であるGADHAチームslack(無料)への参加、個別の質疑応答や実践的な内容を含むプログラム(有償)への参加を強く推奨致します。
GADHA理論入門編
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以下、加害者変容理論「規範編」の概要を述べていきます。
変容するとは、具体的に何を変えることでしょうか?
簡潔に述べると、「自分」という加害のシステムをケアのシステムに変えていくことです。
システムとは何か?
GADHAにおいては、問題を解決するときによく使われるシステム思考を用いた働きかけを指します。(図表1参照)
氷山の一角、と言われるように、表面に表れる事象は全体像のほんの一部に過ぎないということです。
出来事(Events)が起こる前には行動パターン(Patterns)があり、行動パターンの奥にはそれを生み出す構造(Structures)があり、更にその奥には構造の前提にある価値観(Mental Models)が存在します。
(図表1)
例えば、ある人が風邪をひいたという出来事があったとしましょう。
その前の行動パターンを分析すると、風邪をひくときはだいたい睡眠時間が足りていないということが分かります。
更にその奥の構造を辿っていくと、睡眠不足の原因は仕事が忙しいときにストレスがかかっている事だ、ということが判明します。
そのストレスを生み出す価値観は何か、という部分まで掘り下げていくと、そこには「自分の人生において仕事のキャリアは非常に重要であり、何よりも優先される」という思想があり、その価値観故に忙しさにブレーキをかけられないのです。
風邪をひくという問題を解決するには、風邪をひいたという表面の出来事だけを理解しても解決できないということです。
その奥にある「睡眠時間が足りていない」という行動パターンを解決しないと風邪をひき続けてしまいます。
更にその奥の、「仕事の忙しさがかかったときのストレスとの向き合い方」を考え直さないことには、無理矢理に寝ようとしたところで睡眠不足のままでしょう。
そしてそもそも、仕事のキャリアというものは自分の人生において何よりも優先されるべき物なのか? という価値観を問い直さないことには問題が解決しない可能性すらあります。
様々な氷山モデルがありますが、表していることは同じです。
起きている出来事(加害の言動)の原因はシステムの内部(行動パターン、構造、価値観)にあるため、表面の事象、すなわち言動だけを対象に修正するのは困難なのです。
効果が大きい変化は、表層の問題を解決することよりもシステムの深層の問題を解決することで起こります。
とても難しいことですが、GADHAで取り組むのはこの深層の問題を変えていくことなのです。
加害のシステムとは?
最初に、変容とは「自分」という加害のシステムをケアのシステムに変えていくことだと述べました。システムが上述のような意味だとすると、加害のシステムとか、ケアのシステムとはなんなのでしょうか。
それは、以下の図表2のような形で表現されるものになります。とはいえ、これだけみても分かりづらいと思うので、文章にて説明していきます。
(図表2)
加害の信念体系(加害のシステム)を持っている人が生み出すのは支配と服従の関係です。
先程のように具体例で説明しましょう。
「相手にとって良いと思われることをしたのに相手が喜ばないとき」の出来事について考えます。例えばサプライズでプレゼントをしたのに、相手が喜ばなかった時を想像してください。
加害者は「なんでお前は素直に喜ばないんだ」などの発言をし、相手をなじったりするでしょう。
怒る以外にも泣いて悲しんで罪悪感を持たせたりするケースも見られます。
加害者はその時、許せない、おかしい、腹立たしい、ムカつく、相手が間違っているなどと感じています。
そうすることによって相手の感じ方、考え方を否定し、自分の考えるように考えろという支配と服従の関係を構築するのが加害の信念体系です。
その感じ方のひとつ下のシステムには何があるのでしょうか?
そこは、価値観や根源的な信念です。
幸福について、人間について、世界についての考え方という部分です。
倫理観(正しさ)として、「下」は「上」に忖度するべきである、という考えが存在します。
子は親に、部下は上司に、女は男に、妻は夫に、頼まれずとも上の者の言うことを察して動くべきだと考えるということです。
このように加害のシステムの中には、何らかの序列を想定してその中での役割を果たすことが当然であるという「正しさ」についての考え方があります。
そういった考え方に基づいた存在価値、幸福、善とは何なのでしょうか?
それは「人を従わせるのが善いこと、パワー、幸福である」ということです。
故に、相手が言うことを聞かないと無力感を覚え、自分は生きてちゃだめだ、こんなんじゃ恥ずかしい、かっこ悪いという考えに及びます。
更には、人の言うことを聞くということに関しても強い抵抗を持ちますが、自分が下だと思えば相手の言うことを聞き、自分が上だと思えばその時は相手に何でも言うことを聞かせる、と言うような形で自分の存在を確かめているのです。
そうすることが「善いこと」だと思っているということです。
そして、更にその後ろにある世界観は何なのでしょうか?
加害者の捉え方では、「上か下か」「相手が従うべきか、自分が従うべきか」というような「上下」で世界や人間を見ています。
更にその背景にあるのは、ひとつのことが正しい、単純な序列に基づいた世界です。
上下、優劣、勝敗、強弱、正誤。これらの言葉を日常的に使う人間は、正しさがただひとつしかない、一元的な世界の中で生きています。
「どっちが上なんだ」「俺は金を稼いでいるから偉い、お前は金を稼いでいないのに何故言うことを聞かせようとするのだ」「俺はこんなにすごいのにお前はできなくて駄目だ」……
自分は偉い、強い、正しい。
あなたは弱い、間違っている、劣っている。
だから、従わなければならない。
そういった考え方が最下層にあります。
それがシステムの上層に上がっていくほど現実になっていき、最終的には人を傷つける支配と服従の関係になる。
これが加害のシステムの全体像です。
この世界の少なくない人が、加害の信念体系のシステムがこの世の唯一の真実だと思っており、これ以外の考え方など有り得ないと思っているでしょう。そう思う時点で加害的な考え方です。
なぜなら、この世界にはたくさんの、競合する、矛盾した様々な考え方があるのに、自分のそれ以外は有り得ない、間違っていると考えることそれ自体が既に加害の信念体系の一部なのです。
ケアのシステムとは?
ケアのシステム、信念体系とは何でしょうか? こちらも図表2を改めて載せた上で、文章にてお伝えしていきます。
(図表2 再掲)
加害の信念体系の例と同じ状況を元に考えてみましょう。
相手にとってよいことをしたと思ったのに相手が喜ばないとき、ケアの信念体系を持っている人の反応はどのようなものになるでしょうか?
まず、どうやら喜んでいないようだ、喜んで欲しかったけど何か違ったかな?と、責めているわけではなく純粋に疑問に思うでしょう。
この思考に基づく言動は「前は赤色が好きだと言ってたけど好みが変わったかな?」というようなものになります。
ここでは先ほどと同じ状況なのに全く別の言動を取っていることがわかります。
そう聞かれると相手は「服は赤のほうが好きなんだけど、小物は違うんだよね」といったように、喜べない理由を伝えてくれるかもしれません。
そこに対する返答は「そうだったんだ、じゃあ今度は好きな色のものをプレゼントするね」となるでしょう。
そこには攻撃がありません。対話、くつろいだ関係だけがある世界です。
加害の信念体系の場合と状況は同じなのに、思考が違う故に言動が異なるので最終的な結果が違うのです。
そもそもケア的な関わりが出来る人は何をその背景にしているのでしょうか?
そういった人はユニークに世界を見ています。世界はそれぞれが違う、多元化されたものなので、ひとつの基準で測ることができないという風に考えています。
例えば、ある面では上下、優劣、強弱、勝敗世界観もあるけれど、他にも多様な世界観があると考えているでしょう。
お金を稼ぐことも偉いけれどもそれだけではない。
例えば、人が泣いているときに声をかける力も、お金を稼ぐことと同じくらい大事かもしれない。
部下の数が多ければいいのかもしれないが、それだけではない。
世の中には様々な形で人を評価する方法があるから、単純に偉い、偉くない、上か下かなどということは測れない。という風に。
その価値観は人間観にも即座に影響します。
人間はみんな違う尺度、基準を持っていて、異なる、それぞれが違う個別的な存在であるということ。
それ故に、わからない。
他者はどんな人なのかわからない。本当は自分のこともわからない。
どんな人かわからないから、知ろうとすることを重視するのです。
加害の信念、従うか従わせるかの世界観では、何らかの基準で相手を測り上か下かがわかれば相手を下に見て支配する(もしくは相手の言う通りにする)ので、相手を深く理解しようとする、知ろうとするプロセスが欠けます。
そこには対話がありません。一方が奪う、もう一方は奪われる世界です。
ケアの信念では「幸福」も加害の信念と全く違うものになります。
みんなそれぞれ違う。上にも下にもなれない。上になったほうが幸福だとも思わない。
故に、自分が自分らしくあること。自分が思う大切な価値観を自分が生きていけることが幸福になります。
そして他者もまた、その人が在りたいように在れるようになることが幸福だと考えます。
それに基づくと、どちらかが無理をして関係を維持して自分が自分でなくなるような状況は存在価値の欠如を感じるのです。
GADHAにおける解釈強要というのはまさにこのことです。
無理をして、相手を相手じゃなくさせること。相手の解釈(世界の捉え方)を相手のものではなくさせること。
これは強烈な相手の存在価値の否定です。
支配であり、暴力で、重大な加害なのです。
ケアの世界観では人はそれぞれ違う個別的な存在なので、唯一絶対の正しいものはないという真理観になります。
故に、誰に対しても「正しい」「間違ってる」といったことが言えない。感じ方や考え方を強制することはできない。
「感謝しろ」「尊敬しろ」も当然できません。
それらの気持ちは、個人のユニークな感覚の中にあるからです。
もしお互いに無理をして合わせなければならないような関係にあるのなら、距離をとる方がよいという価値観にもなります。
それは何故でしょうか?
その人にはその人の人生があるからです。
自分とは幸せになれないかもしれないけど、他の近い感覚を持った人とは幸せになれるかもしれないと考えるからです。
その時に相手を強制することができない以上、離れることが相手にとっての幸福になり、故にそれが善いことであると考えられるのです。
だからこそ先程のように、相手にとって善いことをしたと思ったときに相手が喜ばない場合には、喜んでくれないのはどうしてなのだろうと理由を考える事ができ、それを攻撃的でない形で聞くこともできるのです。
故に、相手を知ろうとすることができる。
相手が望む、相手がしてほしいことをして、相手が喜ぶことで自分が喜ぶことができる関係にもなれるのです。
これがケアのシステム、ケアの信念体系です。
結論
最初の問いに戻りましょう。
「変容するとは、具体的に何を変えることでしょうか?」
ここまで読んでくださった方はもうお分かりかと思います。
変容の定義は非常に明確です。
「加害のシステムを、ケアのシステムに変える」
これに取り組むのがGADHAにおける加害者変容です。
終わりに
「はじめに」の項目でも述べましたが、変容には「知識を持った仲間」と「実践に取り組むこと」が重要です。
今この記述を読んでいる方は変容のための「知識」を手にしようとしており、それは全ての基礎となる重要な部分です。
しかしながら、それを実際の変容に反映するには変容のための知識を持った仲間と共に学び考え、苦しみをシェアし合い、考えたことを元に実践に取り組んでいくといった部分が肝心になるでしょう。
GADHAチームslackでは、知識を持った仲間と相談し合い変容も認め合うことができ、GADHAプログラムでは質疑応答や個別のレクチャーが可能ですので、それらへの参加を強く推奨致します。
知識を獲得し、変容の道を踏み出しはじめたあなたのGADHAへの参加を心よりお待ちしております。
それでは続いて変容編をご覧ください。
GADHA理論入門編
これらのコンテンツは元々有償で提供していたものです。しかし、1.より多くの潜在的加害者に低いハードルでアクセスしてもらうこと、2.活動の透明性を高めて他の組織・活動と比較してから参加してもらえるようにすることを目的に、オープンアクセスにしています。
オープンアクセスにするということはGADHAの活動の持続可能性を下げるということです。そこで、マンスリーサポーター(MS)の方々を募り、応援してくださる方が増えるほどオープンアクセスコンテンツを増やすという仕組みを取り入れています。
つまり、このコンテンツはMSの方々の協力により誰でも閲覧可能になっています。心より感謝申し上げます。GADHAを応援したい方、理論を知りたい方、恩送りをしたい方などはぜひマンスリーサポーター制度をご覧ください。
クレジット
本記事は「変わりたいと願う加害者」の集まりであるGADHAメンバーの協力を得て作成しています。お力添えに深く感謝します。
動画編集:匿名
文字起し:匿名
執筆 :春野 こかげ (@d_kju2)
責任者 :えいなか (@Ei_Naka_GADHA)